日本姿勢学会 Home >> コラム |> 人それぞれの直(すぐ)なる姿

『人それぞれの直(すぐ)なる姿』 安田登/能楽師

 姿勢の「姿」の訓である「すがた」は「直(すぐ)なる形」の意味である。

 しかしこの「直」は直立の「直」ではない。直立の姿勢は、決して「いい姿勢」=「すがた(直形)」ではないのだ。

 「背筋をまっすぐ伸ばせ」とか「姿勢をよくしなさい」といわれたとき、人はからだを固くする。筋肉は緊張し、息も浅くなる。それは決して「すがた」ではない。

 「す」には「素」という漢字も当てはめるように、素の姿、すなわちその人にとってもっとも自然な姿勢が「すがた」なのである。

 これは「いい姿勢」というものは、人それぞれに違うものであり、年齢・性別・社会的役割、あるいはその日、その時間の体調・心理によっても違うということを意味する。そして、これは「これがいい姿勢である」というような基準もないし、ましてや「いい姿勢を作るためのマニュアル」などというものも存在はしないということも意味する。

 その人、その人にとってもっとも楽な姿勢、もっとも深い呼吸になる姿勢、もっとも気持ちも広がる姿勢、そういう姿勢を見つけるお手伝いを姿勢学会でしていければと思う。

安田登
1956年生まれ。銚子市(千葉県)出身。
能楽師。下掛宝生流ワキ方能楽師であり、日本ではまだ数少ない米国Rolf Institute公認ロルファーの一人。
大学時代に中国古代哲学を学び、20代前半に漢和辞典の執筆に携わる。
能楽師として、東京を中心に舞台を勤めるほか、年に数度の海外公演も行う。また国内外の学校や市民講座、様々な学会などで、能や能の身体技法得をテーマとしたワークショップを開いている。能のメソッドを使った朗読・群読の公演や指導も行い、東京、広尾「東江寺」で、論語と謡曲を中心とした寺子屋を開催。出張寺子屋も行っている。

著書に『身体感覚で「芭蕉」を読みなおす』(春秋社)、『疲れない体をつくる「和」の身体作法 能に学ぶ深層筋エクササイズ』(祥伝社黄金文庫)、『異界を旅する能 ワキという存在』(筑摩書房)、『身体感覚で「論語」を読みなおす。 古代中国の文字から』(春秋社)など多数
ホームページ『和と輪』http://www.watowa.net/
ツイッター『安田登』https://twitter.com/eutonie


▲ このページのトップへ